「代理人カード」という言葉、もしかしたら初めて聞く人もいるかもしれませんね。これは、銀行のキャッシュカードと似ているけれど、あなたが銀行に行けなくなった時に、あなたの代わりに、信頼できる家族などが銀行でお金をおろしたり、預けたりするためのカードのことです。
「もしも」の時に慌てないために、この代理人カードがどんなものなのか、詳しく見ていきましょう。
「もしもの時」って、どんな時?あなたの代わりに銀行に行ける?
私たちは、誰でも急な病気やケガで、一時的に入院が必要になったり、体が不自由になってしまったりすることがあります。また、年を重ねると、判断能力が少しずつ衰え始めて、「銀行まで行くのが大変だな」「ATMの操作が難しくなってきたな」と感じるようになるかもしれません。
こんな時、自分で銀行に行ってお金をおろしたり、振り込みをしたりするのが難しくなると、生活費や医療費、介護費の支払いが滞ってしまって、とても困ってしまいますよね。
例えば、こんな状況に直面するかもしれません。
- 入院中の食費や日用品の購入費が必要なのに、お金がおろせない…
- 毎月の家賃や光熱費の引き落とし口座にお金が足りない…
- 介護サービスの費用を支払いたいけど、銀行に行けない…
このような時、「誰かに代わりにお金をおろしてきてほしいな」と思うことはありませんか?実は、ご家族であっても、口座名義人であるあなたの許可なく勝手に銀行からお金を引き出すことはできません。そんな時に役立つのが、この代理人カードなんです。
代理人カードは「家族で使うお財布カード」!
代理人カードを簡単に言うと、あなたの銀行口座のお金を、あなたが決めた信頼できる家族も使えるようにするためのカードです。
イメージとしては、あなたの口座に繋がっている「お財布」があって、そのお財布からお金を出し入れできる「カード」を、あなただけでなく、もう一人(または複数人)の家族も持てるようになる、という感じです。
このカードを持つ人(あなた以外の人)を「代理人(だいりにん)」と呼びます。
代理人カードの基本をチェック!
いくつか大切なポイントがあるので、もう少し詳しく見ていきましょう。
1.「元気なうち」に手続きが必要!
代理人カードを作るには、あなたがまだ**自分で物事を決められる、元気なうちに、銀行窓口で手続きをする必要があります。**なぜなら、あなたが「この人に私の口座のお金を任せたい」という意思を、銀行に伝える必要があるからです。代理人になる人も一緒に銀行に行く必要があることがほとんどです。
2.誰が代理人になれるの?
代理人になれる人は、あなたの家族に限られることがほとんどです。多くの銀行では、配偶者(夫や妻)、子ども、孫、親などに限られています。兄弟姉妹や友人などは対象外のことが多いので、利用する銀行のルールを事前に確認しておきましょう。
そして何より、あなたが心から「この人なら安心して任せられる」と思える人を選ぶことが大切です。
3.どんなことができるの?
代理人カードを使ってできることは、主に次のことです。
- 現金を引き出す(預金をおろす)
- 現金を預け入れる
- 振り込みをする
- 残高を確認する
つまり、ATMや銀行の窓口で、あなたの代理人が、あなたの口座のお金をあなたと同じように扱うことができるようになります。
4.注意!「暗証番号」の管理と信頼関係
代理人カードには、あなた自身のキャッシュカードとは別の暗証番号を設定できることが多いです。しかし、万が一あなた自身のカードと同じ暗証番号を代理人が知ってしまえば、あなたが気づかないうちにお金が使われてしまう危険性もゼロではありません。
代理人とは、信頼関係が何よりも一番大切です。カードを渡す時には、どんな時に、どんな目的でお金を使うのかを、しっかり話し合って合意しておくことが重要です。
代理人カードのメリットって?
このカードを使うことには、こんな良いことがあります。
- 急な出費にも対応できる: あなたが病気や入院などで動けない時でも、代理人がすぐにお金を引き出して、必要な支払いをすることができます。
- 家族の負担を減らせる: あなたが銀行に行けない時、家族があなたの代わりに銀行窓口で複雑な手続きをする必要がなくなります。ATMで簡単にお金をおろせるので、家族の負担が軽くなります。
- 手続きが比較的簡単: 他の財産管理の仕組み(後見制度など)と比べて、銀行の窓口で比較的簡単に手続きをすることができます。
- 費用がかからないことが多い: 後で詳しく説明しますが、発行手数料などがかからない銀行がほとんどです。手軽に将来への備えができます。
代理人カードの注意点(デメリット)も知っておこう
良い点が多い代理人カードですが、注意しておきたい点もあります。
1.本人の判断能力がなくなると使えない可能性
これが一番重要な注意点です。代理人カードは、あなたが自分で物事を判断できる能力がある間に、代理人がお金を管理するためのカードです。もし、あなたが認知症などで完全に判断能力を失ってしまった場合、銀行によっては代理人カードが使えなくなることがあります。
なぜかというと、銀行は、口座の持ち主であるあなたが、本当に代理人に管理を任せているのかを確認できなくなるためです。そのため、本格的に認知症が進んでしまうと、銀行から「口座を凍結(とうけつ)します」と言われてしまい、代理人カードも使えなくなってしまう可能性があるのです。その場合は、別途「法定後見制度」などを利用しないと、財産を管理できなくなってしまいます。
代理人カードは、「一時的な体調不良」や「判断能力が少し衰え始めた時」にはとても有効ですが、認知症が進行した際の最終的な解決策ではない、と理解しておくことが大切です。
2.代理人がお金を使い込んでしまうリスク
代理人カードは、あなたの口座のお金を、代理人が自由に引き出せるようになるカードです。そのため、もし代理人が不正な目的でお金を使ってしまっても、銀行は責任を負ってくれないことがほとんどです。
「信頼できる家族」を選ぶことが、何よりも重要になります。代理人とは、あらかじめ「どんな目的で、いくらまで使うのか」を具体的に話し合い、約束しておくことが大切です。
3.全ての銀行で利用できるわけではない
全ての銀行が代理人カードを発行しているわけではありません。また、代理人カードは発行していても、家族の誰が代理人になれるか、どんな取引ができるかなど、銀行によってルールが異なります。利用を考えている銀行に、事前に確認が必要です。
4.財産管理の範囲が限定的
代理人カードは、あくまで銀行口座のお金の出し入れがメインです。不動産の売買や、他の金融機関の管理、介護契約などの「あなたの身体に関わること」はカバーできません。より幅広い財産管理や身の回りのサポートを考える場合は、他の制度(財産管理契約や任意後見制度など)を検討する必要があります。
代理人カードにかかるお金は?
代理人カードの発行にかかる費用は、ほとんどの銀行で無料です。
- 発行手数料: 多くの銀行で無料です。
- 年会費: 基本的にかかりません。
ただし、代理人カードを作るために、窓口で本人確認書類(運転免許証など)や印鑑が必要になります。また、事前に銀行のホームページなどで、必要な書類を確認しておくのが良いでしょう。
費用がかからないため、手軽に準備できるのが代理人カードの大きなメリットと言えます。
どんな人が「代理人カード」の利用を考えると良い?
- 高齢になり、銀行に行くのが大変になってきた方
- ATMの操作が難しくなってきた方
- 一人暮らしで、急な入院や体調不良があった時に、家族にすぐにお金を用意してほしい方
- 遠方に住む家族に、いざという時のお金の管理を任せたい方
- まだ本格的な財産管理の仕組みは考えていないけれど、とりあえず手軽な備えをしておきたい方
始めるには、どこに相談すればいい?
代理人カードの利用を考えているなら、まずはあなたのメインバンク(普段使っている銀行)に相談することをおすすめします。
- 銀行の窓口: 銀行員に直接相談するのが一番確実です。
- 銀行の電話相談窓口: 電話で代理人カードの有無や、手続きに必要なものを確認できます。
- 銀行のホームページ: 代理人カードに関する情報が載っている場合があります。
銀行によってルールが異なりますので、必ずご自身が利用している、または利用したい銀行に確認してくださいね。
まとめ
代理人カードは、将来の急な体調変化や、銀行に行くのが難しくなった時に備えて、あなたが元気なうちに、あなたの銀行口座のお金を、信頼できる家族も使えるようにするための、手軽で便利な仕組みです。
費用もほとんどかからず、比較的簡単に手続きできるのが大きなメリットです。しかし、認知症が進行した場合には使えなくなる可能性があることや、代理人との信頼関係が何よりも大切であるという注意点も理解しておく必要があります。
ご自身の状況に合わせて、この代理人カードと、他の財産管理の仕組み(財産管理契約、任意後見制度、家族信託など)を上手に組み合わせて、将来の安心を準備していきましょう。
もし、代理人カードだけでは不安だと感じたら、財産管理契約や任意後見制度など、より包括的なサポートができる制度も検討してみてはいかがでしょうか。
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